
フィジカルPPAとは?バーチャルPPAとの違いや仕組み、メリット・デメリットを徹底解説!
オフサイトPPAの一種であるフィジカルPPAは、PPA事業者が所有する太陽光発電所から生み出される電力(再生可能エネルギー)と環境価値をセットで購入する契約形態のことです。本記事では、その仕組みとメリットやデメリット、調達コストやバーチャルPPAとの違いなどについて解説します。
- フィジカルPPAとは:オフサイトPPAの一種
- フィジカルPPAの仕組み
- バーチャルPPAの仕組み
- フィジカルPPAとバーチャルPPAの違い
- フィジカルPPAの調達コスト
- 発電コスト(PPA契約価格)
- 託送料金
- バランシングコスト
- フィジカルPPAのメリット
- ①環境負荷の低減
- ②企業のブランド価値、ESG評価の向上
- ③初期費用、メンテナンス費用の削減
- ④電気料金の価格変動リスクの回避
- フィジカルPPAのデメリット
- ⑴長期間の契約
- ⑵特定の太陽光発電所に依存する電力供給リスク
- ⑶再エネ賦課金が課せられる
- エネブリッジの短期コーポレートPPAサービス
- まとめ
フィジカルPPAとは:オフサイトPPAの一種
フィジカルPPA(Physical Power Purchase Agreement)とは、電力を必要とする企業(需要家)が、再生可能エネルギーを供給するPPA事業者と直接、電力購入契約を締結する形態を指します。再生可能エネルギー由来の「電力(kWh)」と、その電力が再生可能エネルギーであることを証明する「環境価値」をセットで購入する形態が特徴的です。

従来の電力会社からの電力購入とは異なり、フィジカルPPAは特定の発電設備と需要家が直接結びつく関係を構築します。これにより、需要家は自社が使用する電力が、どの再エネ発電所から供給されているかを明確に特定でき、トレーサビリティの高いクリーンな電力の調達が実現できます。
フィジカルPPAの仕組み

例えば、太陽光発電設備で発電された物理的な「電力」は、需要家の施設へ送配電網を通じて供給されます。そして、その電力が再エネ由来であることを証明する「環境価値」は、非化石証書やグリーン電力証書といった証書の形で需要家に移転されます。この「電力と環境価値のセットでの供給」という点が、フィジカルPPAの本質的な価値となっています。
バーチャルPPAの仕組み

フィジカルPPAと対照的な仕組みが、バーチャルPPA(Virtual Power Purchase Agreement)です。
フィジカルPPAが「電力」と「環境価値」をセットで取引していたのに対し、バーチャルPPAでは、発電事業者との間で「環境価値」のみを取引します。実際に需要家の施設へ供給される物理的な「電力」は、別で電力会社との契約が必要になります。
フィジカルPPAとバーチャルPPAの違い
フィジカルPPAとバーチャルPPAの違いは物理的な電力供給があるか、ないかです。フィジカルPPAでは物理的な電力と環境価値を得られる一方、バーチャルPPAでは環境価値のみしか得ることができないため、卸電力市場から電力を受け取る必要があります。フィジカルPPAとバーチャルPPAの特徴を以下にまとめます。
項目 | フィジカルPPA | バーチャルPPA |
電力の取り扱い | 電力系統を介して需要家へ供給 | 需要家へ供給しない (市場や他事業者への売電) |
環境価値の取り扱い | 電力とセットで需要家へ移転 | 電力と切り離して需要家へ移転 |
同時同量の担保 | 30分や1時間ごとの同時同量を担保する必要がある | 30分や1時間ごとの同時同量を担保する必要がない |
取引価格 | 固定価格(一定期間ごとの見直し条項が含まれる場合もある) | 契約単価と市場価格に基づく差金決済 |
契約期間 | 5年から20年程度 | |
託送料金の取り扱い | 取引価格に追加的な託送料金の支払いが必要 | 取引価格に追加的な託送料金の支払いが不要 (現行契約の電気料金に含まれる) |
オフサイトコーポレートPPAについて(環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ))
を元に、Q.ENESTホールディングス株式会社にて表を作成
フィジカルPPAの調達コスト
フィジカルPPAの調達コストは、以下の要素から構成されています。フィジカルPPAを導入するうえで、現在の電気料金と比較して何がどう違うのかを理解しておきましょう。
発電コスト(PPA契約価格)
発電事業者における利益を含む、当該再エネ電源の発電コストを指します。このコストは、電力の購入者(需要家)から発電事業者へ支払われます。
託送料金
電力を供給するうえで必要な送配電網の利用料金を指します。このコストは、電力の購入者(需要家)から電力会社へ支払われます。
バランシングコスト
計画値同時同量制度(※)に従ったコスト(インバランス料金)や、その他電力供給にかかる諸経費などを指します。このコストは、電力の購入者(需要家)から電力会社へ支払われます。
※計画値同時同量制度とは、国内で安定して電力を供給するために、発電量(需要)と消費量(供給)を一致させることを取り決めた制度のこと。発電事業者と需要家は、この発電量と消費量をそれぞれ30分単位で予測し、広域機関に報告することが義務づけられている。
フィジカルPPAのメリット
①環境負荷の低減
再生可能エネルギーを利用することにより、企業のCO2排出量を削減することが可能です。これにより、企業は脱炭素経営を推進することができ、社会的責任を果たすことができます。
RE100をはじめとする国際的なイニシアティブでは、新規の再生可能エネルギー発電設備の建設を通じて、追加的に再生可能エネルギーを創出する「追加性」のある導入方法が評価される傾向にあります。フィジカルPPAは、まさにこの追加性のある再生可能エネルギー導入方法の一つです。
②企業のブランド価値、ESG評価の向上
再生可能エネルギーの活用によって、企業の環境意識を明確に示すことができ、消費者や投資家からのブランド価値向上に貢献します。環境・社会に配慮したESG経営(※)と、適切なガバナンス(企業統治)が評価されれば、ESG投資による資金調達の可能性も高まります。
※ESG経営とは、企業が環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮して持続可能な成長を目指す経営のこと
③初期費用、メンテナンス費用の削減
フィジカルPPAはオフサイトPPAの一種であるため、発電設備の導入コストやメンテナンス費用はPPA事業者が負担します。そのため、企業(需要家)は初期投資やメンテナンス費用がかからず、初期費用ゼロで再生可能エネルギーを導入することができます。
④電気料金の価格変動リスクの回避
通常の電気料金は化石燃料の輸入価格や卸電力市場の取引価格によって月ごとに単価が変動しますが、フィジカルPPAでは固定価格で取引されるため、その契約分の電力については市場の価格変動の影響を受けません。そのため、一定期間の電力の調達価格を固定化することができます。
フィジカルPPAのデメリット
多くのメリットがある一方で、フィジカルPPAには導入前に慎重に検討すべきデメリットも存在します。フィジカルPPAを検討するうえで、これらのデメリットがあることも理解しておきましょう。
⑴長期間の契約
一般的に、フィジカルPPAの契約期間は20年程度であるため、契約中に事業所の移転や閉鎖、事業内容の変更など、企業の状況が変化する可能性は十分に考えられます。そのため、長期契約ではこのような変化に柔軟に対応することが難しくなってしまうため、なかなか導入に踏み切れないケースが多くあります。
⑵特定の太陽光発電所に依存する電力供給リスク
電力供給が単一の特定の太陽光発電所に依存するため、その発電所が天候不順による発電量低下や設備の故障、あるいは自然災害に見舞われた場合、電力供給が不安定になる、あるいは途絶するリスクがあります。
⑶再エネ賦課金が課せられる
フィジカルPPAの場合、電力供給のために小売電気事業者を介するため、再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)が課せられます。
再エネ賦課金は毎年、当該年度の開始前に、再エネ特措法で定められた算定方法に則り、経済産業大臣が設定しています。2025年度の再エネ賦課金単価は、1kWhあたり3.98円となっています。
エネブリッジの短期コーポレートPPAサービス

エネブリッジでは、フィジカルPPAのデメリットでも挙げたように、長期契約がリスクとなっているお客様向けに、「短期コーポレートPPAモデル」のサービスを新たに開始しました。オフサイトPPAが1年から契約可能となっており、まずはPPA導入に向けたトライアルとして使用していただくことをおすすめしています。

まとめ
フィジカルPPAは単なる電力契約の一形態ではなく、企業のコスト安定化やリスクヘッジ、環境負荷の低減、そして企業価値の向上を同時に達成することを可能にします。
デメリットやリスクを正しく理解し、信頼できるパートナー事業者と共に長期的な視点でプロジェクトを推進することができれば、フィジカルPPAは間違いなく、企業の持続可能な未来を築くための賢明かつ強力な投資となるでしょう。